敵兵を救助せよ! 惠隆之介 草思社

敵兵を救助せよ!―英国兵422名を救助した駆逐艦「雷」工藤艦長

敵兵を救助せよ!―英国兵422名を救助した駆逐艦「雷」工藤艦長

スラバヤ沖海戦後、漂流する英国兵422名を自軍が危険に晒されることも顧みずに救助した駆逐艦「雷」の工藤俊作艦長について書かれたドキュメンタリー書籍。
「雷」が沈没した際に、その際の乗組員全員が戦死してしまったがために、本エピソードは長らく日本国内で知られることはなかったのだが、このとき救われた英国海軍士官、サムエル・フォール卿が来日し、工藤艦長の捜索を海上自衛隊に依頼したことから、著者によって本エピソードが明らかとなる。
工藤艦長自身は、異動によって雷を離れたことにより、戦後も生存することになるのだが、本人は戦中のことは語らずに鬼籍に入っていたため、同じく異動によって生存することとなった、ほんの数名の部下によって雷の戦跡や本エピソードの詳細が知られるところとなるのである。
工藤艦長のエピソードとしては、英国兵を救助した本件と、雷が沈没した際に、工藤艦長の枕元に部下たちが挨拶をしていったというエピソードや、皇族の海軍士官が脚をケガした際、式典に正装で参加できずに困っていた所、大柄であった工藤艦長の靴ならば、ギプスの上からでも靴を履けて助かったといったエピソードがよく知られているように思う。
本書に書かれていたもう一つの胸を打つエピソードは、工藤艦長の没後、かつての部下が墓参りに訪れた際に、その光景を収めた写真に、部下を出迎えるような光の玉が写っていたということだ。
工藤艦長の人柄が、随所から感じられる一冊であった。