時空管理局通信 vol.10 投稿作品「蒼き惑星(ほし)の彼方で」

2008年1月20日に発行された「時空管理局通信 vol.10」に投稿した作品ですが、イベント後に掲載してよいとの許可をいただいたので掲載します。
コピー本ということもあって、手に取れなかった方用ということで。

世の中には、いろんな仕事がある。というのを、私が身をもって知ったのが、もう五年近く前のことになる。
学生という半ば社会的に認められた遊び人の期間を終えると同時に、社会へと送り出されるのがどこの世界でも共通しているようだが、
その仕事先として選んだのが「時空管理局」であった。
近年は、マスコミ報道で半ば軍事組織化した公務員といった側面ばかりが焦点を当てられるが、
本来業務は各次元世界を恒久的、平和的に発展させるための公的組織である。
生まれつき、全く魔力反応をもたなかった私は、入局試験において魔導師ランク「測定不能」というある意味称号をいただいたのだが、
そんな私がなぜ入局試験をパスできたかというと、魔力を全く伴わない鋭いカンがあったからである。
科学的にも魔力的にも説明のつかない私の特性は、他の部署から大いに不興を買ったが、
私を呼び込んだ部署、時空管理局諜報部は、私をアンチ・マジリンク・フィールド(以下、AMF)でも対応可能なエージェントとして仕立て上げたのだった。
とはいえ、魔力を持たない者が、AMF領域で活躍できる機会など早々にはなく、
新暦0075年を揺るがした「ジェイル・スカリエッティ事件」(以下、J・S事件)のときでさえ、
私は第97管理外世界(現地名・地球)に設置された、
「機動六課」(J・S事件の解決に大いに貢献した部隊)専用の現地への移送ポートの管理および監視を任務としていたくらいである。
現地協力者である月村家のお嬢さんは大層可憐であったが、悲しいかな管理局エージェントと現地住民のラブロマンスは望めそうもない。
せめて、管理世界であったならば、ナカジマ三佐のような二桁近い年の差の若い奥さんをもらったり、もっと小さなお嬢さんを二人も養ったり、
あまつさえ、それだけでは飽き足らず、J・S事件で保護した娘さんを何人も家に招いたりとやりたい放(以下、数ページに渡って検閲により削除)
話がわき道にそれた。
なぜナカジマ三佐の話をしたかといえば、ナカジマ三佐の長女、ギンガ・ナカジマ陸曹に関わる話をしようとして、大幅に脱線してしまったのである。
ギンガ・ナカジマ陸曹は、陸士108部隊の捜査官であると同時に、時空管理局広報部次元放送局アシスタントパーソナリティでもある。
今回、私がエージェントとして請け負った任務とは、彼女がアシスタントを務めるメインパーソナリティ、リョーカ二等陸尉の素性を調査せよというのである。
なんのことはない。リョーカ二尉とは、五年前に同時期に入局した同期の仲だ。
彼もまた全くの魔導師適正のない人物ではあったが、彼の個性的なキャラクターに目をつけた広報部が是が非でも欲しいと獲得し、
そのまま広報部の希代かつ期待のホープになったということである。
そして今では、そのアシスタントとの仲をウワサされる広報部のエースとのことだ。
これだけのことであれば、諜報部から捜査命令が下るはずもなく、不審に思いながらも調査を続行した。
すると、彼についての驚愕すべき素性が明らかとなっていく。
広報部での勤務を終えた彼の帰路をつけると、彼は転送ポートで次元世界へと降りていく。
その先は、どこであろうつい先日、私が移送ポートを管理・監視していた第97管理外世界ではないか。
彼は現地世界のオーサカに住居を構え、そこで夜な夜な、プライベートの時間を削りつつ、
時空管理局はおろか、時空管理局が存在するこの世界を、現地世界に向けてPRする広報活動に励んでいたのである。
これはマズイ。
「魔法の存在を認定しない次元世界を管理外世界と設定し、(ロストロギアなどの緊急事態を除き)管理局による干渉の一切を行わない」
とする時空管理局法に抵触する。
私は、時空管理局諜報部エージェントとして、彼を拘束しなければならない。
しかし、彼のしていることは、悪なのか?
善悪の二極論で判断するのは、大変危険なことであることは承知している。
だが、彼の行為は、次元世界と管理外世界とをつなぐ、架け橋の第一歩とならんとする行為そのものではなかろうか?
結局、私の結論はまだ出ていない。
まだ、結論を下すには材料が足りないと判断したからだ。
もっと身近で彼を確かめるために、私も同じく第97管理外世界に滞在することとした。
そのための、現地名が必要である。
私は、自らのコードネーム「ブルー・ウィンド」を安直ながらそのまま用いることにした。
そして、彼の行為を理解するには、彼の行動を模倣してみる必要があるということで、彼に倣って活動拠点を立ち上げたのだった。
蒼き惑星(ほし)の彼方で、彼を見守って早一年あまり。
それでも、いまだ結論は出ていない。