狼と香辛料IX 対立の町 支倉凍砂 イラスト:文倉十 電撃文庫

不老長寿の妙薬となるといわれるイッカクを巡って対立する北と南の街。
イッカクを巡る利益の攻防に否応なく巻き込まれる形となったロレンスは当初こそ狼狽するものの、ホロとコルのおかげで持ち直す。
自分では扱いきれないと確信する途方もない流れの中、ロレンスは一発逆転を夢想と知りながらも模索する。
エーブ、そしてローエン商業組合の板挟みの中で絶望的な状況にまで追い込まれながらも、
苦境を切り抜けるきっかけは、コルが解いた銅貨の謎であった。
上下巻だけでも4か月のスパンが開いているので、もはや伏線すら忘れてしまった。
そして、銅貨についての伏線は短編集を挟んだので前作よりさらに2巻前、昨年の12月刊行分にて描かれたので、
実にひとつのエピソードを完結させるのに1年近くの時間を費やされたことになる。
本作は、経済分野におけるある種のミステリー文庫的な側面があるが、
ミステリーというのは、ひとつの作品の中で起承転結がそろっているからこそ読者を楽しませるし、また作品としても美しいのである。
上下巻構成が悪いとは言わないが、2巻分出すのであれば、同時刊行かあるいは翌月刊行するくらいの意気込みでなければ、興を殺がれてしまう。
あとがきでも触れられているように、上巻が起承転結の転までで終わっているため、下巻は結の中にさらに起承転結を盛り込まねばならないという構造になっている。
このため、下巻単巻ならばエンターテイメントとしての楽しみ方ができるが、裏を返せば上巻はエンターテイメントとして成立しない終わり方だったと取れる。
本作の筆者は、単巻完結エピソードの手腕が長けているのは明白なので、その強みを活かすならば、
今後は起承転結を途中で切る複数巻にまたがる内容は避けるべきだと感じた一連のエピソードだった。