下降曲線に入ったガンダム市場の明日はどうなる?

5/8に、バンダイナムコホールディングス決算短信が発表となった。
その決算にて、ガンダムを取り巻く状況があまり穏やかでいられないレベルで悪化していることに気づいたので、ここ2日考えていたことをまとめてみる。

決算短信って何?

決算短信(けっさんたんしん)とは、株式を上場している企業が、決算発表時に作成する、各社共通形式の決算情報である。
決算公告が会社法の要求している法定情報開示であるのに対し、決算短信証券取引所の要求する民間の開示である。
Wikipedia「決算短信」の項目より)

株式を上場している企業は、株主や一般人に対してこの1年間の企業活動を報告する必要があるので、その際に作成されるのが決算短信と呼ばれるものである。
なぜ、株主だけでなく一般人に対しても公表するかと言えば、
今は株主でないとしても、将来的にその会社の株を持つかどうかを判断できる指標として、会社側から提示するオフィシャルな資料が必要だからということである。
このオフィシャルな資料には、企業側が義務ではなく誠意として公開する部分もあるが、様々な事業の売上が記載されることがある。
バンダイナムコホールディングスは、その事業の中でもキャラクター商品別に売上を記載している企業で、
その中の一つとして、グループ全体のガンダム関連製品(DVDなどの映像製品、プラモなどの玩具製品やゲームなどを全て含んだもの)の売上実績を公開しているので、その数字を見てみることにする。

1999年度〜2008年度までの通期実績ならびに2009年度通期実績(計画)

グループ全体(キャラクター別売上の内、「機動戦士ガンダム」の項目を抜粋)

  • 1999年度通期実績:212億円
  • 2000年度通期実績:246億円
  • 2001年度通期実績:393億円
  • 2002年度通期実績:452億円
  • 2003年度通期実績:542億円
  • 2004年度通期実績:428億円
  • 2005年度通期実績:518億円
  • 2006年度通期実績:545億円
  • 2007年度通期実績:509億円
  • 2008年度通期実績:450億円(計画)
  • 2008年度通期実績:428億円
  • 2009年度通期実績:360億円(計画)
    バンダイナムコグループ全体での実績
    ※2004年以前はバンダイグループでの実績。

2007、2008年度通期実績、2009年度通期実績計画は「バンダイナムコホールディングスIR情報各期決算短信補足資料」より。
1999-2006年度(2007年度含む)は「新・大人のガンダム 日経エンタテインメント!日経BP社 115p」より。
バンダイナムコホールディングスIR情報では、2006年度以前の情報が掲載されていないため、
日経BP社発行の雑誌におけるバンダイCEO兼CGO(チーフ・ガンダム・オフィサー)である上野和典氏のインタビュー経由で発表された数字を記載。
ガンダム事業における最高責任者のインタビューという記事の特性と、2007年度の通期実績がどちらも一致することから、
2006年度以前の数字に関して「バンダイナムコホールディングスIR情報」と同等の情報源として扱う。

上記実績より見えること

2000年度以降は、「ガンダム」というジャンルが全体としてファッションやブームとして注目されたこともあり、急速にその市場規模を拡大した時期になる。
2003年度は「機動戦士ガンダムSEED」の公開により、その勢いがピークに達した年であり、
機動戦士ガンダムSEED」以外の各ガンダム製品も含めて、総合的によく売れた年でもあった。
機動戦士ガンダムSEED」以降のガンダム市場における特徴として、ガンダムの本放送がない年は、売上が落ちるという点があった。
それは「機動戦士ガンダムSEED」と「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の空白期間であった2004年度で一時的に売上が落ちて、
機動戦士ガンダムSEED DESTINY」が放送された2005年度に盛り返していることからもうかがえる。
2006年度は本放送はなかったものの、アーケードでは「戦場の絆」が投入された年であり、「連合VSザフト」もコンシューマ版がリリースされるなど、ガンダムゲーム隆盛の時代だった。
さらには、「機動戦士ガンダム」のDVD-BOXセットが発売されたのも2006年度で、本放送以外の関連事業が殊のほかガンダムの売り上げに貢献した年でもあった。
しかし、ゲーム部門や映像部門による援護射撃は、2006年をピークとして徐々に売り上げは落ちていく。
2007年度は「機動戦士ガンダム00」のファーストシーズンが始まったことにより、辛うじて500億円のラインを維持する。
しかし、翌年の2008年度は計画では450億円としていたが、「機動戦士ガンダム00」のセカンドシーズンが放映されたにも関わらず、計画を下回る実績となってしまう。
2008年度は世界的な不況もあり、必ずしも「機動戦士ガンダム00」に事業を牽引する力がなかったとは言い切れない。
しかし、2009年度の計画を見る限りでは、おそらくバンダイナムコの人間はこう考えたと推測できる。
機動戦士ガンダム00には、ガンダムの売り上げ下降を止めるストッパー効果はなかった。」
そして、本放送がない年には売上は落ちるというこれまでの流れに従って計画を立てると、確かにこの360億円という数字も致し方ないのかもしれない。
だが、計画の数字を低く見積もるとしても、300億円台というのは8年前の2001年度と同等の事業しか展開しないと見積もっていることになる。
2009年は、ガンダム30周年という記念すべき年だというのに。
この360億円という数字から読み取れることは2つ。
1つは、先日アニメ化が発表された「機動戦士ガンダムUCユニコーン)」には、本放送による実績の盛り返しが期待されていないということ。
これは、「機動戦士ガンダムUC」がいわゆる普段のテレビ放送とは異なるアニメ化であると示しているようなものだ。
それはOVAとしての展開なのかもしれないし、あるいはもっと別の方法によるものなのかもしれない。
ただ、いずれにしても「機動戦士ガンダムSEED」や「機動戦士ガンダム00」に期待されていた効果を見込んでいないということは事実だ。
もう一つは、ガンダムに関係するプロ・アマを問わずに深刻な事実となるかもしれない。
それは、バンダイナムコがこれだけ弱気の数字を見積もったということは、
バンダイナムコの中に「ガンダムはもうダメだ。縮小して細々と、無理のない範囲でやろう」という風潮が芽生えているのでは?ということだ。
ガンダムの事業そのものを縮小するということは、消費者にとってはそれだけ望む製品が出てくる可能性が減るということだし、
作り手にとってみれば、それだけガンダムという作品を世の中に出す機会が減るということだ。
そうなると、作り手にとっても、消費者にとっても、ガンダムを望む人間には、決して好ましい未来は訪れないだろう。
この、外れてほしい予測を裏付けるように、バンダイナムコホールディングの決算短信では、
2009年度の計画において海外で急成長を遂げている「BEN10」シリーズと、国内で目覚ましい成長を見せた「バトルスピリッツ」をより拡大していくと明記している。
これは、これまでガンダム関連に振り向けていたグループのリソースを縮小し、より成長性のある事業に振り分けようという方針だと思われる。
企業の選択肢として考えるならば、それは正しい。
ただ、ガンダムに期待を寄せる人々にとってみれば、これからしばらくは暗黒期のような、
ガンダム市場の下降曲線の時代に突入するということを意味することを忘れてはならない。